9月は世界アルツハイマー月間 ─ その物忘れ、"MCI"かもしれません

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認知症コラム #MCI #世界アルツハイマー月間 #物忘れ

「最近、同じことを何度も聞いてしまう」
「約束したことをうっかり忘れる」
そんな瞬間に、ふと不安がよぎることはありませんか。

毎年9月は、世界アルツハイマー月間です。
その”気になる物忘れ”の正体を、少し立ち止まって見つめてみませんか。

【この記事のポイント】
MCI(軽度認知障害)は、認知症そのものではなく、健常な状態でもない中間の状態です。
MCIの方は1年で約5〜15%が認知症に移行する一方、約16〜41%は健常な状態になるとされています。
気になる物忘れがあれば、原因を見極めるためにも、早めに医療機関へご相談ください。

9月は「世界アルツハイマー月間」

9月21日の「世界アルツハイマーデー」は、国際アルツハイマー病協会(ADI)が1994年に始めたものです。※1
2012年からは、9月全体が「世界アルツハイマー月間」となりました。※1
WHO(世界保健機関)も、認知症を公衆衛生上の優先課題と位置づけています。※2

日本でも、認知症基本法にもとづき、9月21日が「認知症の日」、9月が「認知症月間」とされています。
この時期には、認知症に関する普及啓発イベントが全国で行われます。※3

厚生労働省の推計では、2022年の認知症の高齢者は約443万人、MCIの高齢者は約559万人でした。
合わせて1,000万人を超え、高齢者の約3.6人に1人にあたります。※3
2040年には、認知症が約584万人、MCIが約613万人になると見込まれています。※3

もはや、誰にとっても「他人事ではない」病気です。
だからこそ、この9月をきっかけに、認知症の”少し手前”の段階を知っていただきたいと思います。
それが「MCI(軽度認知障害)」です。

「加齢の物忘れ」と「MCI」は、どう違う?

年を重ねれば、誰でも物忘れは増えていきます。
ただ、その物忘れが「加齢によるもの」なのか、それとも「MCIのサイン」なのかを、見分けるヒントがあります。
次の表は、あくまで一般的な目安です。

加齢による物忘れ MCI(軽度認知障害)
忘れ方 体験の”一部”を忘れる
(例:昨日の夕食のメニュー)
体験そのものを忘れる
(例:昨日夕食を食べたこと自体)
自覚 ある(ご本人が気にする) 薄いこともある
日常生活 支障はない 大きな支障はまだ少ないが、ご家族が違和感に気づくことがある
その後の経過 ゆっくりとしか進まない 認知症に進むこともあれば、健常な状態に戻ることもある

個人差が大きいため、この表だけで判断することはできません。
気になるときは、医療機関にご相談ください。

MCIとは、記憶障害などの軽度の認知機能の障害が認められるものの、日常生活にはあまり支障がないため、認知症とは診断されない状態です。※3
厚生労働省は、MCIを「認知症そのものではありません。しかし健常な状態でもありません」と説明しています。※4

【この項目の出典】
※3 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」(令和6年12月)(外部サイト)
※4 厚生労働省「軽度認知障害」(外部サイト)

ご家族が気づく「小さな変化」チェックリスト

MCIや初期の認知症は、ご本人よりも一緒に暮らしているご家族が先に気づくことがあります。
次のような変化に、思い当たることはありませんか。

  • 同じ話・同じ質問を、短時間に何度も繰り返すようになった
  • 約束や予定を忘れることが増えた(通院日・家族の誕生日など)
  • 財布・鍵・眼鏡など物をよく探すようになった
  • 料理の手順が乱れる/同じおかずが続くようになった
  • 今まで使えていた家電(洗濯機・電子レンジなど)の操作に戸惑う
  • 身なりへの関心が薄れた(同じ服を続けて着る/お化粧しなくなった)
  • 外出や趣味など、好きだったことへの意欲が下がった
  • 怒りっぽくなった/気分の落ち込みが増えたなど、性格の変化が見られる

これらの変化が複数、しかも徐々に進んでいると感じたら、医療機関への相談を検討したい段階です。
「まだ大丈夫」と様子を見ているうちに、時間がたってしまうこともあります。
より詳しいサインは、認知症のサイン ─ 早期発見のチェックポイントでもご紹介しています。

MCIのような症状の背景には、さまざまな原因があります

MCIと聞くと「認知症になる前触れ」と身構えてしまいがちです。
実は、MCIのような症状の背景には、複数の原因が考えられます。

1. アルツハイマー病

アルツハイマー病は、脳内に老人斑や神経原線維変化などのタンパク質の凝集が蓄積し、神経細胞の変性を伴う疾患です。※3
アルツハイマー病が原因でMCIの状態になることもあります。※5

2. 脳血管の問題(脳梗塞など)

脳卒中のあとに、認知症が生じることもあります。※2
高血圧は、認知症だけでなく脳梗塞などの脳血管障害の危険性も高めるため、
中年期から高血圧の治療に取り組むことが勧められています。※6

3. 治療で改善する可能性のある”隠れた病気”

原因の中には「治る認知症」、つまり治療により改善する病気があります。※6
具体的には、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、正常圧水頭症、慢性硬膜下出血などです。※6
原因となっている病気を特定することは、適切な治療のために大切です。※6

4. 生活習慣などのリスク要因

WHOは、認知症のリスクを高めるものとして、高血圧、糖尿病、肥満、うつ、視力や聴力の低下、睡眠不良、
頭部外傷、脳卒中、喫煙、過度の飲酒、運動不足、社会的孤立、大気汚染などを挙げています。※2
日々の生活を見直すことが、リスクを減らす手がかりになります。

MCIと言われても、認知症に進むとは限りません。
まずは原因を正しく見極めることが、その後の道筋を大きく左右します。

MCIから、認知症に進む人・戻る人

厚生労働省のMCIハンドブックによると、MCIの方は1年で約5〜15%が認知症に移行します。※6
一方で、1年で約16〜41%の方は健常な状態になることもわかっています。※6

そのため、早い段階から対策を行うことで、健常な状態への回復や、認知症への移行を遅らせることが期待できるとされています。※6
つまりMCIは、その後の道筋を変えられる可能性がある段階なのです。

今日から始められる、6つの工夫

The Lancet委員会(2024年)は、対策で変えられる14の危険因子を挙げています。※7
教育の機会の少なさ、難聴、高LDLコレステロール、うつ、頭部外傷、運動不足、糖尿病、
喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、視力低下です。

これらに対処すれば、認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があるとされています。※7
ここから、日常で取り入れやすい工夫を整理しました。

  • 生活習慣病(高血圧・糖尿病・高LDLコレステロール・肥満)の管理
  • 散歩など、体を動かす習慣
  • 禁煙と、お酒の飲みすぎに注意すること
  • 人との交流・会話・趣味などの知的活動
  • 聞こえにくさ・見えにくさがあれば、早めに受診や補聴器・眼科の相談をすること
  • うつ状態のケアと、頭部のけがを防ぐ工夫

これらは、いずれも今日から始められることばかりです。
そして何より大切なのは、気になる時点で、医療機関に相談することです。

「早く気づく」ことで、できることが増えます

認知症は、早い段階で気づけば気づくほど、選べる選択肢が広がります。

  • 治療で改善する可能性のある病気を見逃さず、早めに対処できる
  • アルツハイマー病によるMCIや軽度の認知症の場合、疾患修飾薬(レカネマブ・ドナネマブ)による治療を検討できることがある
  • ご本人が「元気なうち」に、これからの暮らしを話し合える
  • 介護保険・成年後見制度など、使える制度を計画的に準備できる
  • ご家族が「なぜ?」を理解し、日々の関わりが穏やかになる

疾患修飾薬の対象は、アルツハイマー病によるMCIまたは軽度の認知症の方です。※5
医師が診断のうえ、適正使用のガイドラインに基づいて判断するため、すべての方に使えるわけではありません。※5

「診断されてから」ではなく「気になった時点で」ご相談いただくことが、ご本人にもご家族にも、一番の安心につながります。

よくあるご質問

Q. 加齢による物忘れとMCIは、どう違いますか?

一般に、加齢による物忘れは体験の一部(たとえば昨日の夕食のメニュー)を忘れ、ご本人に自覚があることが多いとされています。
MCIでは、体験そのものを忘れたり、ご本人の自覚が薄かったりすることがあります。
ただし個人差が大きく、ご自身やご家族だけで見分けることは難しいため、気になるときは医療機関にご相談ください。

Q. MCIと診断されると、認知症になるのですか?

そうとは限りません。
厚生労働省のMCIハンドブックでは、
MCIの方は1年で約5〜15%が認知症に移行する一方、約16〜41%は健常な状態になることがわかっているとされています。

Q. 家族が気づく「小さな変化」には、どんなものがありますか?

同じ話や質問を短時間に何度も繰り返す、
約束や予定を忘れることが増える、物をよく探す、料理の手順が乱れる、家電の操作に戸惑う、といった変化があります。
こうした変化が複数、徐々に進んでいるときは、医療機関への相談をご検討ください。

Q. 認知症は予防できますか?

認知症を完全に防ぐ方法は分かっていません。
ただ、The Lancet委員会(2024年)は、
対策で変えられる14の危険因子に対処すれば、認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があるとしています。
高血圧・糖尿病などの管理、体を動かすこと、人との交流などを、日常に取り入れてみてください。

Q. 新しい治療薬(レカネマブ・ドナネマブ)は、誰でも使えますか?

いいえ。
対象は、アルツハイマー病によるMCIまたは軽度の認知症の方です。
医師が診断のうえ、適正使用のガイドラインに基づいて判断しますので、すべての方に使えるわけではありません。

Q. 受診するか迷っています。ご家族だけで相談できますか?

はい、ご家族だけのご相談も可能です。
「もしかして」と思った段階で、認知症専用ダイヤル(046-204-8817/月〜金 9:00〜18:00)へお電話ください。

気になったら、まず「相談」から

「病院に行くほどでは……」
「もし認知症と言われたら怖い」
そんな気持ちで受診をためらう方は、とても多くいらっしゃいます。

当センターは、診断や治療だけでなく、「まずは話を聞いてほしい」というご相談もお受けしています。
神奈川県指定 認知症疾患医療センター(連携型)として、「もしかして」と思った段階からのご相談に応じています。
ご家族だけのご相談も可能です。

📞 認知症専用ダイヤル

046-204-8817

受付:月〜金 9:00〜18:00

相談先をお探しの方は、相談窓口のページもご覧ください。
物忘れのご相談の流れは、相談事例(物忘れ)でご紹介しています。

おわりに

認知症は、早く気づけば気づくほど、できることが増えます。

「もしかして」と感じた今こそ、専門の相談窓口にご相談いただきたい──それが、認知症診療に長く携わってきた私たちからの、心からのお願いです。

この機会に、あなたの、そしてご家族の”物忘れ”を、少し立ち止まって見つめてみませんか。
気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

■ 参考文献・ガイドライン

※本ページは、当認知症疾患医療センター長である尾崎聡理事長(神奈川県認知症サポート医)やえびな脳神経クリニックの岩田智則院長(日本認知症学会専門医・指導医)の監修に基づき、医学的根拠のある情報を分かりやすくお伝えすることを目的としています。
個別の症状については、必ず医療機関で診察をお受けください。
制度や推計は改正・更新される場合があります。公式情報をご確認ください。