MCI(軽度認知障害)
「最近、同じ話を繰り返すようになった」
「約束をうっかり忘れることが増えた」——
その物忘れは、加齢によるものかもしれませんし、
MCI(軽度認知障害)という認知症の一歩手前の段階かもしれません。
MCIは認知症に「必ずなる状態」ではなく、
原因を見極めて適切に対処すれば
進行を遅らせたり、改善できる可能性がある段階です。
このページでは症状・診断・治療・予防、
そして相談先まで、
神奈川県指定 認知症疾患医療センター(連携型)が
医学的根拠に基づいて解説します。
MCIを知る意義【3つの理由】
MCIは”見過ごされがちな段階”であると同時に、
“できることが最も多く残されている段階”です
治療の選択肢がある段階だから
2023年以降、軽度認知障害(MCI)や軽度アルツハイマー型認知症の方に、
進行スピードを遅らせる疾患修飾薬(レカネマブ・ドナネマブ)が使えるようになりました。
この治療はMCI〜軽度の段階でしか使えないため、気づくタイミングがそのまま治療選択肢の広がりに直結します。
※いずれも、えびな脳神経クリニック公式サイト(別タブ)が開きます
“治って戻る”ケースがあるから
MCIのすべてが認知症になるわけではありません。
甲状腺機能低下症・ビタミンB12欠乏症・うつ病など治療で改善する原因が背景にある場合、症状が改善することがあります。
原因を見極めて動けるかどうかが、その先の分かれ道です。
ご本人・ご家族の”準備の時間”ができるから
MCIの段階なら、ご本人が判断力を保った状態で、今後の暮らし・介護・お金・意思決定について家族と話し合えます。
「まだ元気なうちに」できる備えは、その後のご家族の安心にもつながります。
MCI(軽度認知障害)とは
認知症と正常の間にある、
いわゆる”グレーゾーン”の段階
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)とは、認知機能の低下がみられるものの、日常生活には大きな支障がない状態を指します。
認知症と正常のあいだにある、いわゆる“グレーゾーン”にあたる段階です。
日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』では、以下の特徴をもつ状態と定義されています。
- ご本人またはご家族から認知機能低下の訴えがある
- 認知機能(記憶・注意・判断など)が年齢相応より低下している
- 日常生活動作は基本的に自立している
- 認知症の診断基準は満たしていない
MCIは「病気」というより「状態」を指す言葉です。原因は多様で、必ずしも認知症に進行するとは限りません。
正しく見極めることで、進行を防いだり、改善できる可能性がある段階です。
MCIのサイン【4つのカテゴリ】
MCIのサインは、ご本人より
「一緒に暮らすご家族」が先に気づくことが多いのが特徴です
① 記憶・物忘れのサイン
最も気づかれやすい変化です
- ✓同じ話や質問を短時間に何度も繰り返す
- ✓通院日・家族の誕生日など約束や予定を忘れる
- ✓財布・鍵・眼鏡など物を頻繁に探すようになった
② 段取り・判断のサイン
「今までできていた作業に時間がかかる」ことが特徴です
- ✓料理の手順が乱れる/段取りに時間がかかる
- ✓今まで使えていた家電(洗濯機・電子レンジ等)の操作に戸惑う
- ✓買い物や支払いの計算に迷うことが増えた
③ 意欲・関心のサイン
“元気がなくなった”と感じる変化です
- ✓身だしなみへの関心が薄れた/同じ服を続けて着る
- ✓外出や趣味など好きだったことへの意欲が下がった
- ✓会話や人との交流を避けるようになった
④ 気分・性格のサイン
「元の人柄と少し違う」変化に気づいたら要注意です
- ✓怒りっぽくなった/気分の落ち込みが増えた
- ✓不安感が強まった/些細なことで動揺しやすくなった
- ✓「元の人柄と少し違う」と感じる変化がある
加齢の物忘れ・認知症との違い
MCIは、加齢と認知症の
ちょうど中間にあたる段階です
| 項目 | 加齢の物忘れ | MCI | 認知症 |
|---|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる | 一部〜全体を忘れることが増える | 体験そのものを忘れる |
| ヒントで思い出せるか | 思い出せる | 思い出せないことが増える | 思い出せない |
| 自覚 | ある | ある〜薄い | ない、または否認 |
| 日常生活 | 支障なし | 支障はまだ少ない | 支障あり |
| 進行 | 大きく進まない | 放置すると認知症に進むことも | 進行性 |
| 受診・対処 | 経過観察でよい | 早期の相談・診断が有効 | 継続的な医療・介護連携 |
認知症全体の症状・種類について詳しく知りたい方は、
「認知症について」ページもあわせてご覧ください
MCIの原因【4つのタイプ】
MCIは”認知症予備軍”だけではありません。
原因を見極めることが第一歩です
① アルツハイマー病の初期段階
(最も多いタイプ)
脳内にアミロイドβ・タウというたんぱく質が徐々に蓄積し、記憶を司る「海馬」の働きが少しずつ低下していきます。
近年は、この蓄積そのものに働きかける疾患修飾薬(レカネマブ・ドナネマブ)が登場し、早期発見の意義が高まっています。
② 脳血管の問題
(隠れ脳梗塞など)
小さな脳梗塞や脳の血流低下が、認知機能に影響するタイプです。
頭部MRI検査で発見されることが多く、高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理で進行を抑えられる可能性があります。
③ 治療で改善する”隠れた病気”
甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、正常圧水頭症、うつ病、薬剤の副作用、慢性硬膜下血腫など、適切な治療で症状が改善する病気が原因のこともあります。
「認知症だと思っていたら実は治る病気だった」というケースは決して珍しくありません。
MCI段階で気づき、鑑別診断を受ける最大のメリットのひとつです。
④ 加齢と生活習慣の複合要因
睡眠不足、社会的孤立、運動不足、聴力低下、うつ症状などが複合的に絡み、一時的に認知機能が落ちて見える場合もあります。
生活習慣の見直しで改善することもあります。
MCIの診断【検査の4ステップ】
複数の検査を組み合わせて、
原因まで含めて総合的に判断します
01
問診・生活歴の聴取
ご本人・ご家族から症状の詳細、生活状況、既往歴、服用中のお薬などをうかがいます。
ご家族の”気づき”が診断に大きく貢献しますので、可能であればご家族の同席をおすすめします。
02
認知機能検査
(神経心理検査)
MMSE(ミニメンタルステート検査)やHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)などで、記憶・注意・判断力を評価します。
所要時間は10〜30分程度です。
03
頭部MRI検査
海馬の萎縮、隠れ脳梗塞、脳血流の状態を確認します。
当院では受診当日のMRI検査に対応しています。
04
血液検査
甲状腺機能・ビタミンB12・葉酸などを測定し、
“治療で改善する原因”がないかを確認します。
原因が特定できれば、MCI改善の道筋が見えてきます。
必要に応じて、脳血流SPECT検査や、
より専門的な神経心理検査を追加することもあります。
診断結果は、原因の推定と併せて、
ご本人・ご家族にわかりやすくご説明します。
進行率と改善するケース
MCIは”認知症になる”だけでも、
“何もしなくても治る”だけでもありません
MCIと診断された方のうち、年間10〜15%が認知症へ移行すると報告されています
(日本神経学会『認知症疾患診療ガイドライン2017』)。
5年後には約半数が認知症に進行するケースもあり、決して軽視できない段階です。
一方で、原因が特定でき、適切な治療や生活習慣の見直しを行うことで、認知機能が維持・改善する方もいることが報告されています。
特に「治療で改善する原因」(甲状腺・ビタミンB12・うつ病など)が背景にある場合は、原因治療が奏功するケースがあります。
MCIは、”認知症に必ずなる状態”ではなく、
“その後の道筋を変えられる可能性がある段階”です。
MCIの治療【4つのアプローチ】
単一の”特効薬”はありませんが、
4つのアプローチを組み合わせて
進行を遅らせ、改善を目指します
① 治療で改善する原因への対処
甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、うつ病、薬剤の副作用など、原因疾患があればそれを治療します。
改善が期待できるケースは少なくありません。
② 生活習慣の見直し
高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理、有酸素運動、バランスの取れた食事、良質な睡眠、社会的な交流など。
「今日から始められること」が予防・改善の柱です
(詳しくは次章)。
③ 非薬物療法
認知機能訓練、音楽療法、回想法、作業療法などを、必要に応じて活用します。
楽しみながら続けられることが大切です。
④ 疾患修飾薬
(アルツハイマー病初期の場合)
アルツハイマー病を原因とするMCIには、疾患修飾薬レカネマブ(レケンビ®)・ドナネマブ(ケサンラ®)が適応となる場合があります。
適応判定(PET検査等による診断確定)は専門医の判断が必要です。当院では取扱医療機関として対応しています。
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MCI予防【生活習慣14項目】
Lancet Commission(2020/2024更新)による、
認知症リスクを高める修正可能な14項目です
- ✓高血圧の管理(成人期以降)
- ✓糖尿病の予防・治療
- ✓肥満の解消(中年期以降)
- ✓定期的な有酸素運動
(1日30分の散歩でOK) - ✓禁煙
- ✓過度な飲酒を控える
- ✓社会的な交流を保つ
(人と会話する機会を増やす) - ✓難聴があれば補聴器を使う
(会話の減少は認知機能に悪影響) - ✓視力低下があれば眼科受診・矯正する
- ✓うつ状態のケア
(早めに専門医へ相談) - ✓大気汚染を避ける
- ✓頭部外傷を防ぐ
(自転車のヘルメット着用など) - ✓生涯にわたる学び・知的活動を続ける
- ✓LDLコレステロールの管理
「全部やる」ではなく「できるところから」で構いません。
ご相談・ご予約はお電話で
「気になるけど、受診までは……」
というご家族もお気軽に。
ご本人抜きでのご相談も、もちろん歓迎です。
アクセス・受診場所
当センターは、えびな脳神経クリニック内に併設されています
えびな脳神経クリニック
〒243-0438
神奈川県海老名市めぐみ町3-1
ViNA GARDENS PERCH 601-12
🚉 アクセス
小田急線・相鉄線・JR相模線
「海老名駅」西口より徒歩1分
ViNA GARDENS PERCH 6階
(エレベーターにてお越しください)
※駐車場ご利用の方には
1時間分のサービス券を発行しております。
よくある質問
Q. MCIとは、簡単に言うと何ですか?
認知機能の低下はみられるものの、日常生活には大きな支障がない状態のことです。
認知症の一歩手前とされる”グレーゾーン”にあたる段階を指します。
Q. MCIは治りますか?
原因により異なります。甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症など「治療で改善する原因」が背景にあれば、大きな改善が期待できます。
アルツハイマー病初期の場合も、生活習慣の改善や疾患修飾薬により進行を遅らせられる可能性があります。
Q. MCIから認知症に進行する確率は?
日本神経学会のガイドラインによると、年間10〜15%が認知症へ移行するとされています。
5年後には約半数が認知症に進行するケースもありますが、個人差が大きく、生活習慣や原因への対処により変わります。
Q. MCIの検査はどこで受けられますか?
当センター(えびな脳神経クリニック内 神奈川県指定 認知症疾患医療センター)で、問診・認知機能検査・血液検査・頭部MRIを組み合わせた鑑別診断を承ります。
海老名市・座間市・綾瀬市を中心に、他市町村からのご相談も受け付けています。
Q. MCIの薬はありますか?
アルツハイマー病を原因とするMCIには、疾患修飾薬レカネマブ(レケンビ®)・ドナネマブ(ケサンラ®)が適応となる場合があります。
適応判定にはPET検査等が必要です。当院は取扱医療機関です。
Q. 40代・50代でもMCIになることはありますか?
あります。MCI自体には年齢による正式な区分はありませんが、40代・50代でも発症することがあります。
この年代のMCIは仕事や家庭への影響が大きく、また若年性認知症(65歳未満で発症する認知症)につながる可能性もあるため、早期の相談が特に重要です。
当センターでは若年発症のMCIのご相談も承っています。
Q. 家族に「MCIかも」と伝えるべきですか?
ご本人の性格や関係性によりますが、否定的に伝えるよりも「一緒に検査を受けてみよう」と歩幅を合わせる姿勢が推奨されます。
伝え方に迷ったら、ご家族だけの相談も当センターで承っています。
Q. MCIの予防に効果があるとされる生活習慣は?
Lancet Commission(2020/2024更新)は、高血圧・糖尿病・肥満・運動不足・喫煙・過度な飲酒・社会的孤立・難聴・視力低下・うつ・大気汚染・頭部外傷・低教育・LDLコレステロールの14項目を、認知症リスクを高める修正可能な要因として挙げています。
■ 参考文献・ガイドライン
- 日本神経学会 監修『認知症疾患診療ガイドライン2017』
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」
- 厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」
- 米国精神医学会『DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版)』
- Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020/2024 report of the Lancet Commission. The Lancet.
- Petersen RC. Mild Cognitive Impairment. N Engl J Med. 2011.
- PMDA(医薬品医療機器総合機構)レカネマブ・ドナネマブ 添付文書
医学的根拠のある情報を分かりやすくお伝えすることを目的としています。
個別の症状については、必ず医療機関で診察をお受けください。
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