認知症治療に新しい選択肢「ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)」とは?

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院長 岩田智則

えびな脳神経クリニック
院長 岩田智則

日本脳卒中学会(評議員)
日本血管内治療学会(評議員)
日本脳循環代謝学会(評議員)
米国心臓協会国際フェロー(Fellow of AHA・脳卒中部門)
日本神経学会専門医/指導医
日本内科学会総合内科専門医/指導医
日本脳卒中学会専門医指導医
日本認知症学会専門医指導医
厚生労働省認定外国人医師臨床修練指導医

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ドナネマブ(ケサンラ®)とは?

軽度のアルツハイマー型認知症に使われる新薬です

ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)は、2024年9月に厚生労働省に承認された新しい認知症治療薬です。

もの忘れが目立つようになった初期の段階で使える薬で、症状が進む前に始めることが重要です。

この薬は、「病気のもとに働きかけるタイプのお薬(疾患修飾薬:DMT)」で、これまでの薬と違って、認知症の進行自体を遅らせることが期待されています。

日本国内でDMTとして承認された薬は、2023年のレカネマブ(レケンビ®点滴静注)に続き、ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)が2例目です。

原因物質「アミロイドβ」を除去して、進行を遅らせることが期待されています

アルツハイマー型認知症では、脳の中に「アミロイドβ」というたんぱく質がたまり、神経細胞に悪影響を与えることが原因の一つとされています。

ドナネマブ(ケサンラ®)は、このアミロイドβを取り除く作用があり、それによって病気の進み方をゆるやかにすることができます。

2023年に発表された国際的な大規模臨床試験「TRAILBLAZER-ALZ 2試験」では、ドナネマブ(ケサンラ®)を使った人は、使っていない人に比べて病気の進行を最大35.1%遅らせることができることが示されました。

これは試験全体を通じて、特定の患者の症状の悪化が4.4 ~ 7.5 か月遅くなったことを意味します。

特に、より早い段階(タウたんぱくの蓄積が中等度以下)の患者さんほど効果が高い傾向があり、早期からの治療開始の重要性が示されています。

従来の認知症薬との違い

これまでの薬は「症状をやわらげる」ものが中心でした

従来のアルツハイマー型認知症治療薬は、「対症療法薬(たいしょうりょうほうやく)」が主流で、以下のようなものがあります:

  • ドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン、リバスチグミン:神経伝達物質の働きを助け、記憶や注意力を保つ効果
  • メマンチン:中等度以上の認知症に使われ、神経の過剰な興奮を抑える

これらは「脳の働きを一時的に補う」ことが目的で、認知症そのものの進行を止めることはできませんでした。

ドナネマブ(ケサンラ®)は「認知症そのものの進行にアプローチ」します

ドナネマブ(ケサンラ®)は、アミロイドβを除去することで、認知症の進み方自体を遅らせることを目指す新しい薬です。

「今の状態を少しでも長く維持する」ことを目的としており、従来薬とはアプローチが異なります。

つまり、今ある症状を直接よくする薬ではなく、「これ以上悪化しないようにする薬」として期待されています。

投与は点滴で、月に1回・最大18回までが基本です

ドナネマブ(ケサンラ®)は飲み薬ではなく、医療機関で行う点滴治療です。

少なくとも30分かけて点滴します。
初回から3回目までは700mg、その後は1400mgと増やします。

原則18カ月の治療ですが、12カ月時点で、Aβプラークの除去が確認できた場合は、18回を待たずに治療を終了することも可能です。

ドナネマブ(ケサンラ®)はどんな方が治療の対象になる?

ドナネマブ(ケサンラ®)は、だれでも使える薬ではありません。

大まかには、次の2つの条件を満たす方が対象となります。

軽度認知障害(MCI)〜軽度のアルツハイマー型認知症の方

ドナネマブ(ケサンラ®)が使えるのは、認知症が進む前の段階である「軽度認知障害(MCI)」または「軽度のアルツハイマー型認知症」と診断された方です。

中等度以上に進行した場合は、神経細胞がすでに大きく失われてしまっていることが多く、アミロイドβを取り除いても十分な効果が期待できないとされています。

そのため、できるだけ早期の段階で専門医に相談することが重要です。

脳内にアミロイドβが蓄積していることが条件になります

ドナネマブ(ケサンラ®)はアミロイドβを標的とした薬なので、脳内にこの物質がたまっていない方には効果が期待できません。

使用前には、脳の中にアミロイドβが蓄積しているかどうかを、しっかり検査で確認する必要があります。

PET検査や髄液検査で、使用の可否を確認します

脳の中のアミロイドβの有無は、「アミロイドPET検査」や「髄液検査」で確認できます。

当院では、腰椎穿刺による髄液検査を実施しており、アミロイドPET検査については提携医療機関へご紹介のうえで検査を受けていただきます。

これらの検査結果をもとに、ドナネマブ(ケサンラ®)治療が適切かどうかを慎重に判断します。

効果と限界|知っておきたいポイント

すべての人に効果があるわけではありません

ドナネマブ(ケサンラ®)は「必ず効果が出る薬」ではありません。

臨床試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)でも、効果が大きく出たのは「タウたんぱくの蓄積が中等度以下の方」でした。

一方で、認知症の進み具合や脳の状態には個人差があり、薬の効き方にもばらつきがあります。

検査や診察を通じて、その方にとって本当に適した治療かどうかを丁寧に判断することが大切です。

「症状を改善する」薬ではなく、「進行を遅らせる」薬です

ドナネマブ(ケサンラ®)は「記憶力が良くなる」「症状が元通りになる」といった効果を期待する薬ではありません。

目標は、「今の状態をなるべく長く保つ」ことであり、1年後・2年後の生活の質を守るための薬です。

治療を始めるタイミングが早いほど効果が期待できます

ドナネマブ(ケサンラ®)は、早期の段階で使った方に高い効果が見られています。

特に、脳の萎縮やタウたんぱくの蓄積が少ない段階では、進行を数か月〜半年以上遅らせる可能性があります。

「少し物忘れが増えてきた気がする」「心配だけれど、まだ病院へ行くほどではないかも」と感じる時点で、早めに専門医の診察を受けることが、治療の選択肢を広げる第一歩になります。

副作用や注意点について

ドナネマブ(ケサンラ®)の代表的な副作用:ARIA(アリア)

ドナネマブ(ケサンラ®)やレカネマブ(レケンビ®)など、アミロイドβを減らすタイプの薬では、「アミロイド関連画像異常(ARIA)」と呼ばれる変化が見つかることがあります。

ARIAとは、脳に水がたまるような変化(むくみ)や、小さな出血が画像上で見られる状態を指します。

治験では、何らかのARIAが認められた方は約4人に1人程度とされています。

多くの方は症状がなく、MRIで見つかるだけですが、まれに次のような症状が出ることがあります。

・頭痛
・吐き気
・ふらつきやめまい
・意識がぼんやりする

ARIAは、特に遺伝的にリスクが高い方(APOE4という遺伝子を持つ方)に起きやすい傾向がありますが、ほとんどの場合は軽度で、経過観察や一時的な治療中断で改善します。

治療中は定期的なMRI検査で安全を確認します

ARIAが起きていないかを調べるために、治療の前後や途中で定期的にMRI検査を行います。

ドナネマブ(ケサンラ®)では、投与開始後の2回目、3回目、4回目、7回目、14回目を目安にMRI検査を行うことが推奨されています(状況により変更の可能性あり)。

無症状でも画像上の変化が見つかることがあるため、定期的なMRI検査は、安全に治療を続けるうえで非常に重要な役割を担います。

副作用が見られた場合は、医師の判断で治療を中止することもあります

もしARIAが見つかった場合は、症状の有無や程度に応じて、治療を一時中断したりそのまま経過を観察したりするなど、医師が安全性を最優先に判断します。

重い症状が出た場合には、治療を中止することもあります。

このように、ドナネマブ(ケサンラ®)は、「リスクをゼロにする薬」ではなく、「検査や経過観察を行いながらリスクをコントロールして使う薬」という位置づけになります。

副作用のリスクを下げるため、ドナネマブ(ケサンラ®)を使うには専門的な知識と検査体制が必要です。

当院では、安全に治療が受けられるよう、必要な検査や説明をしっかり行っています。

治療の流れ(当院の場合)

ご本人・ご家族と相談しながら、段階的に治療適応を判断します。

① 問診・診察

ご本人やご家族から症状・生活のご様子を伺い、現在の状態を丁寧に確認します。
進行状況や日常への影響を把握したうえで、治療の必要性を評価します。

受付のイメージ

② 認知機能検査・MRI検査・血液検査など

第一段階として、認知機能検査・MRI検査・血液検査を当院で行い、ドナネマブ(ケサンラ®)治療を行える状態かを医学的に判断します。

検査中のイメージ

③ アミロイドPET検査 または 髄液検査

第一段階の検査結果から治療可能性がある場合、次のステップとして アミロイドPET検査(提携医療機関) または 髄液検査(当院で腰椎穿刺) をご案内します。
治療が適応となるか最終的な確定診断を行う重要な検査です。

アミロイドPET検査・髄液検査のイメージ

④ 結果説明・治療方針のご相談

検査結果をもとに、効果・副作用・費用・治療スケジュールについて丁寧に説明します。
ご本人・ご家族の意向を確認し、ご同意いただいたうえで治療開始となります。

検査結果説明のイメージ

⑤ 月1回の点滴治療と経過観察

ドナネマブ(ケサンラ®)は月1回の点滴治療を基本とし、最大18回まで実施します。
治療期間中は、MRI検査などを行い、安全性(特にARIA)や効果を定期的に確認します。

また、12ヶ月目以降にアミロイドβプラークの除去が確認できた時点で、投与は完了となります。
(除去の確認が得られた場合、18回より前に終了することがあります。)

※治療中のMRIは副作用(ARIA)の有無を確認するために必要です。

点滴治療のイメージ

費用・保険適用について【補足】

2024年12月より保険適用に(2025年時点)

ドナネマブ(ケサンラ®)は、2024年11月から公的医療保険の対象となりました。

そのため、条件を満たした方は保険を使って治療を受けられます。

同じくアルツハイマー病の原因物質を減らす薬であるドナネマブ(ケサンラ®)と年間費用を比較すると、投与スケジュールや投与量に差異があるため一概には言えませんが、ほぼ同等とされています。

3割負担の方で1回あたり約4~5万円前後(投与量などによる)

薬の値段(薬価)は1瓶20mL350mgあたり66,948円と定められており、使用する量によって費用が変わります。

一般的に、1回の点滴でかかる費用はおよそ14〜15万円ほどで、そのうち3割が自己負担になります。

つまり、3割負担の方であれば1回あたりおよそ4〜5万円前後の負担になります。

ドナネマブ(ケサンラ®)における、公的医療保険および高額療養費制度利用後の自己負担額(月額)の例は以下の通りです。

名前AさんBさんCさん
年齢65歳73歳75歳
自己負担割合3割2割1割
1回あたりの保険適用後の金額(概算)約45,000円約30,000円約15,000円
保険適用後の月額(概算)約90,000円約60,000円約30,000円
高額療養費制度の月額上限(通常)80,210円18,000円18,000円
多数回数該当後(4回目以降)44,400円

※上記は2025年時点での制度に基づく目安です。
実際の負担額は加入されている保険制度・年収・世帯構成・地域によって異なる場合があります。
ここでご紹介している内容は目安としてご覧ください。

高額療養費制度がご利用いただけます

高額療養費制度とは、1か月に支払う医療費が高額になった場合、その一部が払い戻される仕組みです。

たとえば、70歳以上で年金収入のみの方であれば、1か月の自己負担上限は1万円〜2万円台に抑えられることがあります。

負担の上限は「年齢」や「所得区分」によって異なります。

※事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、窓口での支払いも自己負担分までに抑えられます。

※マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば、申請不要で自動的に適用され、一時的な立て替え負担も不要になります。

多数回該当で、さらに負担が軽くなることも

同じ方が12か月以内に3回、自己負担上限に達した場合、「多数回該当」となり、4回目からは上限額がさらに引き下げられます。

ドナネマブ(ケサンラ®)は月に1回の治療を最大18か月行うため、この多数回該当に該当する可能性が高く、実質的な自己負担額がさらに軽くなるケースもあります。

たとえばAさんのように、1年間に自己負担の上限まで達した月が3回以上あると、4回目からは「多数回該当」として上限額がさらに軽くなり、1か月あたりの自己負担は44,400円まで下がります。

そのほかにも、医療費控除や介護費と合算する制度など、ご負担を軽減するさまざまな仕組みが設けられています。

マイナンバーカードを使えば手続きも簡単に

2025年現在、マイナンバーカードを健康保険証として使うことで、医療機関での受付時に限度額認定証の提示が不要になります(自動的に上限額が適用されます)。

事前に書類を申請・郵送する手間がなくなるため、「高額療養費制度がより簡単に使える」ようになっています。

当院でもマイナンバーカードによる受付に対応しています。

ご不明な点があれば、受付にてお気軽におたずねください。

MRI・診察・事前検査も含めた治療計画をご説明いたします

当院では、薬の費用だけでなく、検査や診察にかかる費用も含めて、事前に全体の費用をご説明いたします。

ご不安な点があれば、遠慮なくご相談ください。

ケサンラとレケンビの違い

どちらも“アミロイドβ”を標的とした新しい認知症治療薬

どちらも「アミロイドβ」というアルツハイマー病の原因物質を減らす薬であり、考え方としてはよく似た治療薬ですが、使い方や効果にいくつか違いがあります。

共通点

・どちらも「疾患修飾薬(DMT)」という種類の薬です
・軽度のアルツハイマー型認知症やMCI(軽度認知障害)の方が対象です
・アミロイドβが脳にたまっていることが条件です
・治療前に検査(アミロイドPET検査や髄液検査)を行います

違い(比較表)

名前ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)レカネマブ(レケンビ®点滴静注)
投与方法月1回の点滴2週間に1回の点滴
治療の回数最大18回まで(12ヶ月で終了も可)18ヶ月投与が基本
副作用の傾向(※)やや発症率高め(ARIA)やや低め(ただし要注意)
薬価(1瓶あたり)
令和6年11月時点
66,948円/20mL350mg45,777円/2mL 200mg
114,443円/5mL 500mg
(※)両薬剤の臨床試験は異なる患者集団、異なる選定基準、異なる評価方法で実施されており、直接的な有効性・安全性の比較はできません。

また、レカネマブ(レケンビ®)と比較してやや認知機能が低下した方も、治療対象となる点が利点と考えられます。

どちらの薬が適しているかは、患者さんの体質や病状、検査結果、生活スタイルや通院頻度の希望などを総合的に考慮して、医師と相談しながら一緒に決めていきます。

まずはお気軽にご相談ください

レカネマブ(レケンビ®)やドナネマブ(ケサンラ®)などの新しい治療薬は、誰にでも効果があるわけではありませんが、適切なタイミングで使うことで、生活の質を保ちやすくなる可能性があります。

認知症の治療では、「早めの診断」と「適切なタイミングでの治療開始」がとても重要です。

「家族が治療を受けられるか不安」「費用が気になる」など、お気軽にご相談ください。

当院では丁寧な説明と一緒に、安心して受けられる体制を整えています。

もの忘れが気になる方、家族の症状が心配な方は、早めの受診をご検討ください。

ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)に関するQ&A

Q:すぐに治療は始められますか?
A:まずは診察と検査を行い、ドナネマブ(ケサンラ®)が使える状態かどうかを確認する必要があります。 その後、治療内容をご本人・ご家族にご説明し、納得いただいたうえで治療を開始します。
Q:副作用が出たらどうなりますか?
A:軽い症状の場合は様子を見ながら治療を続けることもありますが、必要に応じて治療を一時中止したり、継続を見合わせることもあります。安全を第一に判断します。
Q:高齢の家族が点滴治療に耐えられるか心配です
A:初回投与時以外は、点滴後の経過観察含め1時間程度で終わります。治療中は医師や看護師が体調をしっかり見ながら行いますので、無理なく受けていただけます。
Q:ドナネマブ(ケサンラ®)治療を受けたほうがいいか迷っています
A:迷われている段階でもかまいません。まずは症状やご家族の状況を伺いながら、丁寧に説明いたします。情報を知ることから、安心の一歩が始まります。

【参考サイト(外部サイト)】

厚生労働省|医療保険
┗ 自己負担限度額や制度の概要を詳しく解説しています。

全国健康保険協会(協会けんぽ)|こんな時に健保
┗ 自己負担限度額や制度の概要を詳しく解説しています。

日本神経学会|認知症診療ガイドライン
┗ 認知症治療に関する専門医の見解と最新の治療方針を紹介しています。

日本核医学会|アミロイドPET検査のご案内
┗ アミロイドPET検査の意義や仕組みについてわかりやすく紹介されています。

PMDA(医薬品医療機器総合機構)|医薬品審査報告書:ドナネマブ
┗ ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)の審査内容や有効性・安全性に関する正式な報告書です(※検索が必要です)。

イーライリリー社(日本法人)公式サイト
 ┗ ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)に関する製品情報やプレスリリースが掲載されています。