【2025年発売】片頭痛の新しい治療薬「ナルティーク」とは
この記事を書いた人

えびな脳神経クリニック
院長 岩田智則
日本脳卒中学会(評議員)
日本血管内治療学会(評議員)
日本脳循環代謝学会(評議員)
米国心臓協会国際フェロー(Fellow of AHA・脳卒中部門)
日本神経学会専門医/指導医
日本内科学会総合内科専門医/指導医
日本脳卒中学会専門医指導医
日本認知症学会専門医指導医
厚生労働省認定外国人医師臨床修練指導医
目次
- 片頭痛の新しい治療薬「ナルティーク」とは?
- ナルティークはどのように作用する薬ですか?
- ナルティークでできること(効能・効果)
- 従来のトリプタン製剤との違いは?
- ナルティークはどんな方に検討されますか?
- 飲み方と治療の考え方(用法・用量)
- ナルティークの費用について(保険診療)
- 効果が実感できない場合について
- 発症抑制として使う場合の評価
- 使用できない方・注意が必要な方
- 飲み合わせと副作用について
- 当院での診察の流れ
- まとめ
- 院長からひと言
- よくある質問
片頭痛の新しい治療薬「ナルティーク」とは?


近年、片頭痛治療は大きく進歩しており、その中で注目されているのが CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を標的とした治療薬です。
ナルティークOD錠75mg(一般名:リメゲパント硫酸塩水和物)は、日本で初めて、片頭痛の「急性期治療」と「発症抑制」の両方を適応とする経口薬として、2025年12月16日に発売されました。(承認:2025年9月19日/薬価収載:2025年11月12日)
海外ではすでに使用実績があり、米国では急性期治療(2020年)と発症抑制(2021年)、欧州では急性期治療・発症抑制(2022年)の承認を受けています。
日本でも本剤の登場により、ライフスタイルに合わせた治療選択肢が広がりました。
片頭痛のつらさが続いている方は、治療の選択肢を広げるためにも、一度医療機関で相談してみることをおすすめします。
ナルティークはどのように作用する薬ですか?


片頭痛発作の際には、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が増加し、痛みの信号が強く伝えられることが分かっています。
ナルティークは、このCGRPが受容体に結合するのを阻害することで、痛みの伝達を抑える作用をもつ薬です。
従来の治療薬の中には、血管を収縮させる作用をもつものもありましたが、ナルティークは血管を収縮させる作用を主としない点が特徴とされています。
こうした作用機序の違いから、これまでの治療で十分な効果が得られなかった方においても、治療の選択肢のひとつとして検討されることがあります。
ナルティークでできること(効能・効果)
ナルティークには、以下の2つの効能・効果があります。
- 片頭痛発作の急性期治療
- 片頭痛発作の発症抑制
これまで、片頭痛治療では「発作時に飲む薬」と「予防のために飲む薬」を分けて考えることが一般的でした。
ナルティークは、片頭痛の病態に関与するCGRPを標的とすることで、発作時のつらさを抑える治療と発作そのものを減らす治療の両方に関わる薬として位置づけられています。
従来のトリプタン製剤との違いは?
片頭痛の急性期治療では、長年にわたりトリプタン製剤が中心的な役割を担ってきました。
多くの患者さんに有効な一方で、効果や副作用の面で課題を感じる方もいらっしゃいます。
トリプタンは「血管」に作用する薬
トリプタン製剤は、拡張した脳血管を収縮させることで、片頭痛の痛みを和らげる薬です。
代表的なトリプタン製剤には、以下のようなものがあります。
- スマトリプタン(イミグラン®)
- ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)
- リザトリプタン(マクサルト®)
- エレトリプタン(レルパックス®)
- ナラトリプタン(アマージ®)
即効性が期待できる反面、血管を収縮させる作用があるため、以下の方は使用が制限される場合があります。
- 心血管疾患や脳血管障害のある方
- 副作用(動悸、胸部不快感など)が問題になる方
ナルティークは「痛みの信号」に作用する薬
ナルティークは、CGRPの働きを抑えることで、痛みの信号そのものを弱めると考えられている薬です。
トリプタンとは作用の考え方が異なるため、以下のような場合に治療の選択肢として検討されることがあります。
- トリプタンで十分な効果が得られなかった
- 副作用がつらかった
- トリプタンが使いにくい持病がある
どちらが優れている、という話ではありません
トリプタンにもナルティークにも、それぞれ役割があります。
大切なのは「どの薬が自分に合っているか」を、症状や生活背景を踏まえて判断することです。
ナルティークはどんな方に検討されますか?


新しい治療薬ほど、「誰に使うか」が重要になります。
ナルティークも、医師が診察を行い、以下の条件を満たす場合に使用を検討します。
急性期治療として使用する場合
国際頭痛学会の診断基準に基づき、「前兆のない片頭痛」または「前兆のある片頭痛」と確定診断された場合に投与を検討します。
特に以下の場合は、危険な頭痛を除外するための診察や検査を行ったうえで判断します。
- これまで片頭痛と診断されたことがない
- いつもと違う症状や経過の頭痛がある
発症抑制として使用する場合
十分な診察のもとで、下記を確認したうえで適応を検討します。
- 片頭痛発作が月に複数回以上起きている
- または慢性片頭痛である
飲み方と治療の考え方(用法・用量)
ナルティークは、治療の目的によって飲み方が異なる薬です。
急性期治療
通常、成人には 1回75mgを片頭痛発作時に内服します。
発症抑制(予防)
通常、成人には 75mgを隔日で内服します。
重要なポイント
- 1日あたりの総投与量は75mgを超えない(1日1回1錠まで)
- 急性期と予防を自己判断で組み合わせない
- 舌の上か舌の下に置いて唾液で溶かし、なるべく水を飲まずに服用する
飲み方を誤ると効果が十分に得られないだけでなく、安全性にも影響します。
必ず医師の指示に従って使用します。
また、新薬のため、発売から約1年間、1回の処方で14日分までという処方制限があります。
ナルティークの費用について(保険診療)


ナルティークは保険適用のお薬です。
自己負担割合(1割・2割・3割)に応じて、実際の支払額が決まります。
ナルティークOD錠75mgの薬価は、1錠あたり 2,923.20円(2025年11月時点)です。
自己負担額の目安(薬剤費のみ)
- 3割負担の方:1錠あたり 約880円
- 2割負担の方:1錠あたり 約580円
- 1割負担の方:1錠あたり 約290円
※別途、診察料や検査費用がかかります。
使い方による費用のイメージ
急性期治療として使用する場合は、片頭痛発作が起きたときに1錠を服用します。
そのため、発作の回数が少ない方では、月あたりの費用は比較的抑えられます。
発症抑制(予防)として使用する場合は、75mgを隔日で服用するため、1か月あたり約15錠が目安となります。
3割負担の場合、月あたりの薬剤費は約13,000円前後となります。
発症抑制(予防)を目的に使用する場合、ナルティークの月あたりの費用は、CGRP関連の注射薬(エムガルティ・アジョビ・アイモビーク)と同程度になることが多いです。
※処方日数や自己負担割合により金額は変わります。
※費用の目安は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)公開の薬価および添付文書の用法・用量をもとに算出しています。
飲み薬か注射か、通院頻度や調整のしやすさなどに違いがあるため、症状や生活スタイルに合わせて選択することが大切です。
▶︎ 片頭痛の注射薬について
効果が実感できない場合について
ナルティークを服用しても、まったく効果が認められない場合もあります。
その場合は、片頭痛以外の原因が隠れていないかを再評価し、他の治療法を検討します。
「効かなかった=失敗」ではなく、治療を見直すための大切な判断材料と考えます。
発症抑制として使う場合の評価
発症抑制目的で使用する場合は、開始から約3か月を目安に効果を評価します。
改善が見られない場合は中止を検討し、改善が得られた場合でも、定期的に継続の必要性を見直します。
長期的に漫然と続ける薬ではなく、状態に応じて調整していく治療です。
使用できない方・注意が必要な方
使用できない方
- 本剤の成分に対して過敏症の既往がある方
特に注意が必要な方
- 腎機能障害・肝機能障害のある方
- 妊娠中、妊娠の可能性がある方
- 授乳中の方
- 小児(安全性・有効性の試験は行われていません)
これらに該当する場合、投与の可否や注意点を医師が慎重に判断します。
飲み合わせと副作用について
ナルティークは、他の薬との併用により作用が強まったり弱まったりすることがあります。
処方薬だけでなく、市販薬やサプリメント、健康食品も含めて事前に申告してください。
また、まれに過敏症(呼吸困難、発疹など)や便秘といった副作用が報告されています。
体調に異変を感じた場合は、服用を中止し医療機関にご連絡ください。
当院での診察の流れ
症状や生活への影響を丁寧に確認し、医師が適応を判断します
問診
頭痛の症状や起こり方、頻度、日常生活への影響、これまでの治療歴などについて詳しくお伺いします。
※片頭痛かどうかを見極めるため、症状の経過を丁寧に確認します。


必要に応じてCT・MRI検査
症状や経過から、他の脳の病気が疑われる場合には、CTやMRI検査を行い、原因を詳しく調べます。


片頭痛の診断
問診内容や検査結果をもとに、国際的な診断基準に沿って、片頭痛であるかどうかを診断します。


治療選択肢のご説明
発作時の治療薬や予防治療を含め、症状の頻度や生活スタイルに応じた治療選択肢をご説明します。
※現在使用中のお薬との兼ね合いも確認します。


ナルティークの処方
診察の結果、ナルティークが適していると判断した場合に処方を行います。
※すべての方に処方されるお薬ではありません。症状や体調を踏まえ、医師が総合的に判断します。


まとめ
- ナルティークは日本初、急性期治療と発症抑制の両方に適応をもつ経口片頭痛治療薬
- 2025年12月16日発売
- 医師の診断と判断のもとで使用される治療薬
- 片頭痛で生活に支障がある方は、早めの相談が大切
院長からひと言



えびな脳神経クリニック
院長 岩田智則
よくある質問
自己判断で使用するのではなく、まずは医療機関での診察が必要です。
診察を通して片頭痛かどうか、他の病気が隠れていないかを確認したうえで、治療の選択肢を検討します。
「これって片頭痛?」という段階でも、遠慮なくご相談ください。
ただし、すべての方に適するわけではないため、医師が総合的に判断します。
発症抑制を目的として使用する場合は、開始から約3か月を目安に、発作の頻度や日常生活への影響を評価します。
発作のつらさを和らげたり、発作の回数を減らしたりすることを目的とした治療のひとつです。
治療は、薬だけでなく生活習慣や誘因への対策も含めて考えていきます。
関連ページ
参考ページ(外部サイト)
▶︎ KEGG DRUG — リメゲパント(ナルティークOD錠)









片頭痛の治療は、「薬を出して終わり」というものではありません。
症状のつらさや発作の頻度、生活への影響などを確認しながら、治療内容を調整していくことが大切です。
ナルティークは、そのような治療の中で選択肢を広げるお薬のひとつです。
気になる頭痛症状がある方は、我慢せず、まずは頭痛の診療に慣れた脳神経外科・脳神経内科でご相談ください。