アルツハイマー型認知症の新しいお薬:レカネマブ(レケンビ®)

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この記事を書いた人

院長 岩田智則

えびな脳神経クリニック
院長 岩田智則

日本脳卒中学会(評議員)
日本血管内治療学会(評議員)
日本脳循環代謝学会(評議員)
米国心臓協会国際フェロー(Fellow of AHA・脳卒中部門)
日本神経学会専門医/指導医
日本内科学会総合内科専門医/指導医
日本脳卒中学会専門医指導医
日本認知症学会専門医指導医
厚生労働省認定外国人医師臨床修練指導医

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レカネマブ(レケンビ®)ってどんな薬?

レカネマブ(レケンビ®点滴静注)は、2023年12月に発売された「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」と「アルツハイマー病による軽度の認知症」に対する新しい薬です。

この薬は認知症の専門診療を適切に行える基準を満たした医療機関でのみ、使用できる点滴の薬です。

アルツハイマー病とは

認知症にはさまざまな種類の疾患がありますが、その中でも最も多いとされるのがこのアルツハイマー病で、記憶力や認知機能の低下を引き起こす進行性の神経変性疾患です。

初期には物忘れや理解力・判断力の低下が見られ、進行すると日常生活に支障をきたします。

脳内でアミロイドβペプチドやタウタンパク質と呼ばれる物質が異常に蓄積することが原因の一つとされています。

レカネマブ(レケンビ®)の作用

レカネマブ(レケンビ®)は、アルツハイマー病の引き金になるとされる可溶性アミロイドβ凝集体(プロトフィブリル)に作用します。

アルツハイマー病の薬には、現在の症状を軽減するための薬と症状の進行を遅らせるための薬があります。

レカネマブ(レケンビ®)は病気の進行を抑えるための薬で、症状の進行を抑制する効果が期待されている画期的な薬です。

レカネマブ(レケンビ®)が使えるのはどんな方?

MCI〜軽度のアルツハイマー型認知症の方

レカネマブ(レケンビ®)の対象となるのは、病気が進みすぎていない段階である「軽度認知障害(MCI)」や「軽度認知症」の方です。

進行が進んでしまうと、レカネマブ(レケンビ®)の効果が十分に得られない可能性があります。

アミロイドβの蓄積が確認された方

レカネマブ(レケンビ®)は、脳内にアミロイドβが蓄積している方にしか効果がありません。

そのため、事前に次のような検査を行います:

  • アミロイドPET検査(脳の画像を撮って確認)
  • 髄液検査(髄液中のアミロイドβを測定)

これらの結果から、治療が適応となるかどうかを判断します。

効果と限界|知っておきたいポイント

すべての人に効果があるわけではありません

レカネマブ(レケンビ®)は、すべての患者さんに同じ効果が出るわけではありません

大規模な臨床試験(Clarity AD試験)では、レカネマブ(レケンビ®)を使ったグループで認知機能の低下が約27%抑えられたという結果が出ていますが、効果の大きさには個人差があります。

特に、認知症の進み具合や脳の状態(タウたんぱくの蓄積など)によって、薬の効きやすさが異なるとされています。

そのため、診察や検査を通じて、その方にとって適切な治療かどうかを慎重に判断することが大切です。

「症状を改善する」薬ではなく、「進行を遅らせる」薬です

レカネマブ(レケンビ®)は、使ったからといって記憶力が劇的に良くなったり、元通りになるような薬ではありません

あくまでも、「いまの状態をできるだけ長く保つ」「これ以上の悪化をゆっくりにする」ことを目指した薬です。

将来の介護の負担や日常生活への影響を少しでも軽くするために、症状が軽いうちから治療を始める意義があると考えられています。

治療を始めるタイミングが早いほど効果が期待できます

レカネマブ(レケンビ®)の効果は、病気のごく初期(軽度認知障害~軽度認知症)に使うことでより高くなるとされています。

臨床試験でも、脳の萎縮やタウたんぱくの蓄積がまだ少ない段階の方ほど、認知機能の低下を抑えられる傾向が見られました。

そのため、「最近もの忘れが増えた気がする」「心配だけど受診はまだ…」という方は、早めに専門医の診察を受けることが、治療の選択肢を広げる第一歩になります。

レカネマブ(レケンビ®)とドナネマブ(ケサンラ®)の違い

レカネマブ(レケンビ®)とドナネマブ(ケサンラ®)は、どちらも「アミロイドβ」というアルツハイマー病の原因物質を減らす薬です。

考え方は似ていますが、使い方や効果などにいくつか違いがあります。

共通点

・どちらも「疾患修飾薬(DMT)」という種類の薬です
・軽度のアルツハイマー型認知症やMCI(軽度認知障害)の方が対象です
・アミロイドβが脳にたまっていることが条件です
・治療前に検査(アミロイドPET検査や髄液検査)を行います

違い(比較表)

比較項目レカネマブ(レケンビ®点滴静注)ドナネマブ(ケサンラ®点滴静注)
投与方法2週間に1回の点滴月1回の点滴
治療の回数18ヶ月投与が基本最大18回まで(12ヶ月で終了も可)
投与量体重により決定3回目まで700㎎使用
4回目以降は1400㎎使用
MRI検査の実施目安5・7・14回目2・3・4・7・14回目
副作用の傾向(※)やや低め(ただし要注意)やや発症率高め(ARIA)
薬価(1瓶あたり)
令和6年11月時点
45,777円/2mL 200mg
114,443円/5mL 500mg
66,948円/20mL350mg
(※)両薬剤の臨床試験は異なる患者集団、異なる選定基準、異なる評価方法で実施されており、直接的な有効性・安全性の比較はできません。

患者様の体質や病状、治療の希望に応じて、どちらを使うか医師と相談しながら決めていきます。

レカネマブ(レケンビ®)を始めるまでの手順

  1. 問診・診察:症状の確認と認知機能検査を行います。
  2. MRI検査・血液検査:脳の状態を確認し、他の病気との鑑別を行います。
  3. アミロイドPET検査または髄液検査:アミロイドβの蓄積を確認します。
  4. ご説明と同意の上で治療開始:治療効果や副作用について丁寧にご説明します。
  5. 2週間に1回の点滴治療と定期的なMRI検査:安全性を確認しながら治療を続けます。

まずは専門医の診察、神経心理検査、MRI検査などをお受けいただき、もの忘れなどの症状の原因がアルツハイマー病であることを診断します。

さらに、アミロイドPET検査や髄液検査といった検査を受けていただくことで、アミロイドが脳に溜まっている程度をお調べします。

当院では腰椎穿刺による髄液検査を実施しており、アミロイドPET検査を行う場合には提携医療機関様へとご紹介させていただいております。

レカネマブ(レケンビ®)の治療スケジュール

1回の投与につき、約1時間かけて行う点滴です。
2週間ごとに通院していただき、原則として18ヶ月間投与します。

詳しくは後述しますが、考えられる副作用として脳のむくみや出血が起こる可能性あります。

投与開始後、
5回目の投与前(投与開始後2か月までを目安)
7回目の投与前(投与開始後3か月目までを目安)
14回目の投与前(投与開始後6か月目までを目安)
にはMRI検査を実施いたします。

レカネマブ(レケンビ®)の料金

3割負担の方でひと月あたり約99,000円(投与量などによる)

レカネマブ(レケンビ®点滴静注)を使った治療の医療費は投与量などにもよりますが、薬剤費と通院にかかる診療費・検査費など合わせて、目安としてひと月当たりおよそ33万円(=10割の金額)です。

同じくアルツハイマー病の原因物質を減らす薬であるドナネマブ(ケサンラ®)と年間費用を比較すると、投与スケジュールや投与量に差異があるため一概には言えませんが、ほぼ同等とされています。

レカネマブ(レケンビ®)における、公的医療保険および高額療養費制度利用後の自己負担額(月額)の例は以下の通りです。

AさんBさんCさん
年齢65歳73歳75歳
年収550万円280万円160万円
公的医療保険の自己負担割合3割負担2割負担1割負担
公的医療保険適用約99,000円約66,000円約33,000円
高額療養費制度利用80,210円18,000円18,000円
※上記は2025年時点での制度に基づく目安です。
実際の負担額は加入されている保険制度・年収・世帯構成・地域によって異なる場合があります。
ここでご紹介している内容は目安としてご覧ください。

高額療養費制度がご利用いただけます

高額療養費制度は年齢や年収に応じた限度額を超えた場合に超過分の払い戻しを受けることができる制度です。

一時的な支払いとはいえ、レカネマブ(レケンビ®)の治療金額は大きな負担になると思いますので、事前に限度額適用認定証を取得しておくと、窓口での支払いは自己負担額までの支払いで済みます。

さらに、マイナンバーを健康保険証として利用することで、限度額適用認定証の申請手続きや提示が不要となります。

多数回該当で、さらに負担が軽くなることも

また、直近12か月以内に、上限額に達した月が3回以上ある場合は、4回目から「多数回該当」になり、自己負担限度額がさらに引き下げられます。

たとえばAさんのように、1年間に自己負担の上限まで達した月が3回以上あると、4回目からは「多数回該当」として上限額がさらに軽くなり、1か月あたりの自己負担は44,400円まで下がります。

そのほかにも、医療費控除や介護費と合算する制度など、ご負担を軽減するさまざまな仕組みが設けられています。

詳しくは窓口にて医療費に関するパンフレットを用意しておりますので、スタッフまでお気軽にお声がけください。

副作用と注意点

アミロイド関連画像異常(ARIA)

アミロイドβを除去する過程で脳に負担がかかり、脳のむくみや出血が起こることがあります。

これらの現象はアミロイド関連画像異常(ARIA)と呼ばれ、脳からアミロイドβが除去される際、一時的に血液や血漿(血液中の水分などの成分)が血管外に漏れ出すことで起きると言われています。

多くは無症状ですが、まれに頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などの症状が現れることがあります。

症状が出ないような小さい変化も見つけ、安全に治療を遂行するために治療中は定期的なMRI検査を受けていただきます。

もし、何らかの症状が出るなど脳への負担が強い場合には、一時的な治療休止や中断が必要な場合もあります。

また、非常に稀ですが、副作用が重度な場合、入院加療を必要とする場合もあります。

点滴に伴う反応

点滴に伴う反応として頭痛、悪寒、発熱、吐き気、嘔吐などの症状が出ることがありますが、投与はクリニック内のお部屋で休んでいただきながら行いますので、何かあれば医師や看護師がすぐに対応いたします。

まずはお気軽にご相談ください

レカネマブ(レケンビ®)やドナネマブ(ケサンラ®)などの新しい治療薬は、誰にでも効果があるわけではありませんが、適切なタイミングで使うことで、生活の質を保ちやすくなる可能性があります。

もの忘れが気になる方、家族の症状が心配な方は、早めの受診をご検討ください。

ー レカネマブ(レケンビ®)に関するQ&A ー

Q:レケンビは誰でも使えますか?
A:使える人は限られています。 レカネマブ(レケンビ®)は、軽度認知障害(MCI)や軽度のアルツハイマー型認知症の方に使う薬です。 また、脳の中にアミロイドβというたんぱく質がたまっていることが確認できないと使えません。 そのため、まずはPET検査や髄液検査などの詳しい検査が必要です。
Q:すぐに治療を始めることはできますか?
A:すぐには始められません。 レカネマブ(レケンビ®)を使うには、いくつかの検査を行って、病気の状態や薬の適応があるかどうかを確認する必要があります。治療を希望される場合は、まず専門医の診察を受けることから始まります。
Q:点滴治療は体に負担はありませんか?
A:1回約1時間の点滴で、通常は無理なく受けられます。 レカネマブ(レケンビ®)は2週間に1回、病院で点滴を受けていただく薬です。 点滴中に熱が出たり、頭痛がしたりすることがありますが、多くの方は問題なく治療を受けられています。 治療中は医師や看護師がそばで見守りますので、安心してご相談ください。
Q:副作用が出たらどうなりますか?
A:必要に応じて治療を一時中止する場合もあります。 レカネマブ(レケンビ®)には、ARIA(アリア)と呼ばれる副作用があります。これは、脳のむくみや出血などで、ほとんどは無症状ですが、まれに頭痛・めまい・吐き気などが起きることもあります。 そのため、定期的にMRI検査で安全をチェックしながら治療を進めます。異常が見つかった場合は、医師の判断で休薬や中止となることもあります。

【参考サイト(外部サイト)】

PMDA|レカネマブ審査報告書(レケンビ)
┗ ケサンラの審査内容や有効性・安全性に関する正式な報告書です。
 (※リンク遷移後に検索が必要な場合があります)

日本神経学会|認知症診療ガイドライン
┗ 認知症治療に関する専門医の見解と最新の治療方針を紹介しています。

厚生労働省|医療保険
┗ 自己負担限度額や制度の概要を詳しく解説しています。